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Q,血圧は高いほうがいい?低いほうがいい?――緑内障と「夜」の話

2026.03.26

A.血圧は「高いほうがよい」「低いほうがよい」という単純な二分法では語れない。なぜなら、慢性的な高血圧による血管障害と、夜間の一過性低灌流による虚血ストレスという、二重の負荷が視神経にかかっている可能性があるから

おおうら眼科の院長、大浦嘉仁です。当院ではコラム、ネットの検索で多くの緑内障の患者様が来院されます。そのときにどのようなことに気を付けたらいいですか?という質問が多くあります。

緑内障と血圧の関係について、「拡張期血圧が高いとリスクになる」という話を一度は耳にしたことがあるかもしれません。実際、疫学研究では、高血圧が緑内障の発症や進行と関連する可能性が示されており、特に拡張期血圧の高さは視神経の微小循環障害を介したリスク因子として議論されてきました(Leske et al., 2008)。

ところが近年、「夜間の血圧が下がりすぎること」が、緑内障の進行に関与するという報告が複数示されています。一見すると、「高血圧が悪いなら、低いほうがいいのではないか」と感じるかもしれません。しかし、ここには眼の血流という視点が欠けがちです。

視神経がどれだけ血液を受け取れるかは、単純な血圧の高さではなく、眼灌流圧(ocular perfusion pressure)=血圧 − 眼圧によって規定されます(Costa et al., 2014)。夜間は生理的に血圧が低下し、同時に眼圧はやや上昇する傾向があります。この二つが重なると、視神経乳頭への灌流が著しく低下する時間帯が生じます。

実際に、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を用いた前向き研究では、正常眼圧緑内障患者において、夜間平均血圧の低下が大きく、かつその低血圧状態が長く持続するほど、視野進行のリスクが高まることが示されています(Charlson et al., 2014)。

また、夜間の拡張期眼灌流圧(血圧の値のうち低いほう)が低い患者ほど、将来的な視野悪化が起こりやすいことも報告されています(Ramli et al., 2018)。

血圧の日内変動パターンに注目した研究では、夜間の血圧低下が過剰な、いわゆる over-dipper 型の患者において、緑内障性視神経障害が進行しやすい傾向が示されています(Melgarejo et al., 2022)。このような患者では、日中は比較的高い拡張期血圧を示す一方で、夜間には急激な血圧低下を呈することが少なくありません。

この場合、慢性的な高血圧による血管障害と、夜間の一過性低灌流による虚血ストレスという、二重の負荷が視神経にかかっている可能性があります。
この考え方自体は新しいものではなく、すでに1990年代から、夜間低血圧が緑内障進行に関与する可能性は指摘されてきました(Graham & Drance, 1999)。

ここで重要なのは、「血圧は高いほうがよい」「低いほうがよい」という単純な二分法では語れないという点です。緑内障において問題となるのは、「視神経が“いつ”“どの程度の血流不足にさらされているか”」であり、その時間帯はしばしば診察室の外、つまり「夜」に存在します。

血圧のことを外来で尋ねたとき、女性の方の多くが「私は血圧は低いほうです」といわれることも多いです。
しかし、女性の方には、夜間に血圧が下がりやすい方に多いいくつかの共通した特徴を持っている場合が多くあります。痩せ型の方やご高齢の方、降圧薬を服用中の方、夕食を控えめにしすぎる生活習慣のある方では、睡眠中に血圧が必要以上に下がることがあります。夜間の血圧低下は、視神経への血流が減る一因となり、緑内障の進行に関係する場合があります。日常生活でできる対策としては、就寝前に少量の水分をとること、夕食で極端な減塩を避けること、寝る直前に強くリラックスしすぎないことが挙げられます。これらは簡単ですが、夜の血流環境を守るうえで大切な工夫です。

サプリメントや抗酸化、神経保護といった話題が注目されることもありますが、夜間低血圧や睡眠中の循環動態といった要素は、臨床現場でも見逃されがちです。眼圧が十分に下がっているにもかかわらず進行する患者では、こうした全身循環の側面に目を向けることが、病態理解のヒントになることがあります。

緑内障は、眼だけの病気ではありません。

ときには「夜の血圧」という、目に見えない時間帯を意識することが、進行を読み解く鍵になるのです。

参考文献

Charlson, M. E., de Moraes, C. G., Link, A., Wells, M. T., Harmon, G., Peterson, J. C., & Ritch, R. (2014).
Nocturnal systemic hypotension increases the risk of glaucoma progression. Ophthalmology, 121(10), 2004–2012.
https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2014.04.016

Costa, V. P., Harris, A., Anderson, D., Stodtmeister, R., Cremasco, F., Kergoat, H., Lovasik, J., & Ventura, R. (2014).
Ocular perfusion pressure in glaucoma. Acta Ophthalmologica, 92(4), e252–e266.
https://doi.org/10.1111/aos.12298

Graham, S. L., & Drance, S. M. (1999).
Nocturnal hypotension: Role in glaucoma progression. Survey of Ophthalmology, 43(S1), S10–S16.
https://doi.org/10.1016/S0039-6257(99)00008-1

Leske, M. C., Wu, S. Y., Hennis, A., Honkanen, R., & Nemesure, B. (2008).
Risk factors for incident open-angle glaucoma: The Barbados Eye Studies. Ophthalmology, 115(1), 85–93.
https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2007.03.017

Melgarejo, J. D., Lee, J. H., Petitto, M., Ye, F., Murati, F. A., Jin, Z., & Newman, J. D. (2022).
Glaucomatous optic neuropathy associated with nocturnal dip in blood pressure: Findings from ambulatory blood pressure monitoring. Frontiers in Cardiovascular Medicine, 9, 1024044.
https://doi.org/10.3389/fcvm.2022.1024044

Ramli, N., Abdul Halim, W. H., Ho, C. L., & Maniam, S. (2018).
Association between nocturnal ocular perfusion pressure and visual field progression in normal-tension glaucoma. PLoS ONE, 13(4), e0195979.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0195979


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